訴訟等での相続財産、借地権、底地、立退料、使用貸借関係等、さまざまな権利の評価に対応できる不動産鑑定士の事務所です

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  権利の評価とは、借地権や底地、借家権、立退料等の評価です。

 調停や裁判に関連して、相続財産、借地権、底地、名義変更承諾料、条件変更承諾料、地役権、営業権、立退料等の鑑定評価を求められることがあります。
 このような鑑定評価は、それぞれの資産等の適正な価格を指し示すことが目的なのですが、当事者が判明しているだけに、当事者にとって納得のゆくという視点も重要です。
 このようなことに対し、「相手の顔色を伺って鑑定評価額を決めるのか?」という批判が来そうですが、それは最初から「双方が納得ゆく妥協的な価格を求める」ということを意味しているのではありません。私たちは、オープンマーケットを前提とした「誰にでも当てはまる価格」ばかりでなく、売買の相手や賃貸借の当事者が限定された場合、つまり、クローズドマーケットを前提として、「当事者にとって経済的合理性のある価格」を導く場合もあります。このことは、鑑定評価基準であれば、「限定価格」や「継続賃料」として示されており、具体的に鑑定評価基準に示されていない場合であっても、実務上、基準の考え方が大いに参考となる場合が多いのです。
 また、調停や裁判に関連した鑑定評価に当たっては、それぞれについて考慮すべき事項があります。例えば、相続財産に不動産と預貯金等の金融資産がある場合、不動産は、金融資産等と比較して流動性=換金性が低いことから、衡平を計る観点から、特に換金性を重視した鑑定評価額を求める必要があること等です。

 ◎調停、訴訟における鑑定評価は、特に、以上のような内容についていかにセンス良く表現できるかが問われます。また、学説や判例の動向を常に把握すると同時に、弁護士との連携も重要です。
   以下では、あまりお目にかからない使用借権の鑑定評価について示しました。しかし、相続等において、親子関係等に基づき使用貸借がなされている土地や建物が多くの場合に存在するのです。そのような場合に、使用借権をめぐって相続する子ども間で争いとなる場合があるのです。衡平を計る観点から、特に換金性を重視した鑑定評価額を求める必要がある場合の考慮すべき事項が含まれていますので、読んでみてください。

  特殊な資産 〜使用借権〜

  第1章 使用借権の法的特性とその内容

1.法的性格
 使用貸借関係は、@無償契約であり、また、契約の成立要件として目的物の引渡しを原則とするA要物契約である(但し、諾成的使用貸借(の予約)も可能である。)。
 一般に無償で契約が締結される動機の中には、一般的な法律的規範意識とともに、好意・儀礼・社交等の非法律的な社会的規範意識が並存し、従って、無償契約は、自然債務関係や、まだ契約関係と言えない程度の(好意的)非契約的協定関係に隣接する契約形態といわれる。近代資本主義杜会においては、有償の双務契約であることが通常であり、無償契約であること、特定の人間関係を背景としていることから、使用貸借関係は、特殊の法的特性を有することになる。
 また、使用借権は、@建物の所有を目的とするもの、A建物以外の構築物その他の工作物の所有を目的とするもの、Bその他の目的のものがあるが、以下では、@建物の所有を目的とするものを中心に述べる。

2.使用貸借の存続期間と期間中終了及び更新
1)使用貸借の期間
 使用貸借の期間については、@期間の定めがある場合、A期間の定めがないが、使用・収益の目的の定めがある場合、B期間の定めも、使用・収益の目的の定めもない場合等について考えられる。
 まず、@期間の定めのある場合には、その期日に目的物を返還することとなり、特に問題は生じない。A期間の定めがないが、使用・収益の目的の定めがある場合は、「建物所有の目的」というような抽象的定めの場合や、また、例えば、新しく土地・建物を求めるまでの暫定的な仮住居建設のため等の具体的な定めもあるが、一般には、後者のような具体的と思われる定めであっても、その内容が期間の認定に関して曖昧であることが多く、口頭による場合等、その内容に争いが生じることも多い。
 従って、期間の認定に当たっては、契約成立当時における当事者の意思に基づき個別具体的内容を推定しなければならないことになる。これは、B期間の定めも、使用・収益の目的の定めもない場合にも同じである。また、使用貸借は、期間が到来すれば、貸主の承諾が得られない限り、その時点で終了し、また、当初の目的に従って使用・収益を終えたときも終了する。
2)使用貸借の期間中の終了
 学説、判例では、使用貸借関係は個人間の信頼関係に基礎を置くことから、@借主側において、借主が忘恩的、背信的な行為がある場合には、使用貸借の終了を認めるべきとするものが一般的である。また、A貸主側については、窮迫し、且つ、当初、予見できなかった必要が発生した場合には、目的物の返還を求めることができるようにすべきであるとの説が有力とされる。但し、この場合には、借主側の事情も考慮すべきであるが、また、借地権の更新拒絶の場合に求められる「正当事由」のような厳格な解釈はすべきでないとされる。

3.建物の収去と有益費等
1)建物の収去
 使用貸借の終了にあたっては、建物を収去し、目的物を原状に復しなければならない。また、この場合、建物買取請求権は認められない。
2)必要費と有益費の償還
 @必要費については、賃貸借のように、貸主側が、借主が利用できる状態に積極的に土地を維持する義務を負わないことから、借主が負担した必要費を償還する必要はない。また、A有益費に関しては、土地の価値増がある場合、貸主(土地所有者)に不当利得が発生することから、償還義務を認める必要があると解すべきとされる。但し、「土地の造成費は借主が負担する」等の特約がある場合には、この限りではないが、この場合には、負担付きの使用貸借であり、その支出額が多額である場合には、それが使用の対価であるか否かの間題が存する。

4.建物の増改築と条件の変更
 使用貸借には、建物の増改築や非堅固建物から堅固建物への改築することに伴って生ずる借地条件の変更に対する貸主の許可に替わる裁判所の許可の制度はなく、貸主の承諾がある場合に限り増改築等が可能となる。従って、無断での増改築等は、用法違反での契約解除の原因となる。

5.使用貸借の譲渡・転貸と承継
1)借主の変更、使用貸借の譲渡・転貸と対抗関係
 使用借権の譲渡・転貸は、当事者間では有効であるが、貸主の承諾がなければ、譲渡・転貸を受けた者は、貸主(土地所有者)には対抗できず、契約違反となり契約解除の原因となる。また、自己の居住用の建物所有を目的に土地を借り受けた場合には、建物を賃貸することも、用法違反となる。また、借主に相続が発生した場合、「使用貸借は、借主の死亡によりてその効力を失う」が、相続人が使用借権を相続する旨の特約をすれば、相続することができる。但し、このような特約を口頭であるにせよすることは希であり、建物所有の目的とするものであるという外形から、当事者の当初の意思を推定し、使用借権の相続性を積極的に認めようとする傾向がみられる。
2)貸主(土地所有者)の変更と対抗関係
 使用借権は、完全な債権関係であり、当事者のみに有効な制度であり、土地が第三者に譲渡され、土地明渡の請求を受ければ、期間途中であっても、それが権利濫用でない限り、土地を返還する必要がある。但し、貸主側に相続が発生した場合には、相続人が被相続人の地位を承継することから、使用借権者には影響がない。

  第2章 使用借権価格の特性

 以上から、使用借権には、@権利の設定は無償であること、A使用の対価も無償であること、B譲渡・転貸は、原則、認められず、従って、譲渡等の対価を得ることができないこと、また、期間の終了によって、建物を収去し、土地を無償で返還しなければならない(但し、有益費の償還は可能)こと等の法的特性が存することが判った。

 1.使用借権の対価性が問題となる局面
 以上から、使用借権は無償の法律関係であり、基本的にその対価や価格が問題とされる局面はないことになるが、しかし、次のような場合には、建物所有を目的とする使用借権の価格(対価)が問題とされる。
@使用貸借の存続期間中に、貸主の都合によって、使用貸借関係を解消する場合。
A使用貸借の存続期問中に、使用借権と併せて土地所有権の売買がなされ、一括して定められた対価を分配する場合。
B公共用地補償で、使用借権者に補償金を支払う場合。
C土地の使用借権を利用権原とする建物を、民事執行法による競売等によって強制的に換価する場合。
D使用借権の付着した土地を、民事執行法による競売等によって強制的に換価する場合。但し、この場合には、土地価格の控除項目(減価要因)として意味を持つ。
また、 E貸主(土地所有者)が、譲渡を認めている場合の、建物所有目的の使用借権等も考えられる。

 2.使用借権の対価性の内容
 @、A、Bの場合は、使用借権を存続期間中に消滅させるための対価的性格のものである。また、Dは、土地の完全所有権価格に対する減価項目である。このように使用借権を、換価価値のある積極財産として認識することは少なく、完全な権利に対するマイナス要因として考慮されるのが普通である。
 但し、CやEの場合は、地上建物の敷地利用権であり、積極財産として認識される場合と考えられるが、このような場合でさえ、使用借権の不安定性を重視し、敷地利用権付きの建物は、かえって減価すべきであるとの考えも有力である(Eの場合でも、土地が第三者に譲渡されれば、建物収去を請求される可能性が存するから。)。このことは、使用借権に、原則として対抗力や譲渡性がないことやその不安定性を考慮すれば当然の帰結である。
 以上のように、使用借権価格は、積極財産としては無償が原則といえる。但し、積極財産の減価要因として作用する場合に、積極財産の控除項目として対価性が生ずる。そして、このような場合、使用借権の土地利用権としての法的内容と、その内容に応じた経済価値が判断され、使用借権価格を導く必要がある。

  第3章 使用借権価格評価の考え方と鑑定評価手法等

1.使用借権の鑑定評価手法
上記の第2章1の@〜Eに対応し、次のような鑑定評価手法が存する。
 @上記の@、Aに対応し、使用借権が消滅しないで存続したであろう残存期間に得られた使用借権者に帰属する経済的利益(法的に保護され、社会的に認められたであろう利益)の総和を求める手法。
 A同じく上記の@、Aに対応し、消減する使用借権に代替する土地利用権(借地権)を取得するための費用を求める手法。
 B上記のBに対応し、「公共用地の取得に伴う損失補償基準」に定められた手法。
 C上記のC、Dに対応し、競売評価上の基準等による手法。
 D上記のEについては、手法@〜Cを応用できる。
 E建付減価として求める手法、更地価格から建付地価格を控除する手法。
 F使用借権の消滅の対価や、使用借権付きの土地所有権の売買に関しての分配事例等が存する場合には、これに基づき、取引事例比較法に準ずる手法を適用することもできる。
 G建物買取請求権における場所的利益と比較する手法。建物買取請求権の場合には、既に、土地利用権が消滅しているにも拘らず、場所的利益を考慮される。これに対し、使用借権が弱い権利であるにせよ、残存期間中は無償での経済的利益を享受することができるのであり、使用借権の残存期間がある程度残っている場合には、場所的利益よりも高い価値を有しているものとも考えられるのであり、それなりの評価をすべきであるという考えに基づくもの。

2.使用借権であることの経済的利益とは何か
 鑑定評価の手法に関連して、借地権者に帰属する経済的利益、換言すれば、使用借権であることの経済的利益とはどういうものであるかを考察しておく必要がある。それは、建物所有を目的とした賃借権(借地権)のそれと比較すると分かり易い。
 建物所有を目的とする土地の賃貸借、つまり、借地権における賃料とは、土地の使用の対価としての意味だけではない。賃料を支払い続けることは、賃貸借関係が継続され、その結果、法定更新や、譲渡・転貸・増改築に対し裁判所の許可を受ける権利等、借地権としての法的権利内容を享受するための条件であり、そのために必要な対価としての意味がある。このように借地権においては、賃料を支払うことは使用の対価であると同時に、法的保護が獲得され、補強されることに対する対価性を有するが、一方、使用借権においては、使用の対価がない代わり、借地権のような法的な保護もない。
 また、通常、ときの経過に従って経済賃料と実際支払い賃料の差額、つまり、借り得部分が増加し、借地権者に帰属する経済的利益が膨らむ結果、借地権価格が高くなるが、一方、使用借権は、長く借りていれば借り得部分は増加するが、いくら長く借りているからといって、借地権のような権利内容が発生するわけでもなく、却ってときの経過に従い消滅期限がせまり、経済的利益の現価は小さくなる。つまり、借地権と異なり、使用借権は耐用年数の定まった償却資産としての性格を有する。
 以上から、使用借権価格は、借地権者であるなら負担すべき通常の賃料を支払わないでいい、つまり、無償であることに基づく経済的利益を源泉とするが、その経済的利益全体ではなく、その経済的価値を相当割り引いたものでなくてはならない。つまり、差額地代に基づき使用借権価格を求めれば、必ずそれは借地権価格を超えることになる(※)が、だからといって、借地権価格を超えるような結果となってはならないのである。このことは、特殊な場合を除き、使用借権がどのような内容であれ、また、使用借権価格をどのような手法によって求めたとしても変わらないことと認識しておく必要がある。

(※)「差額地代 = 経済地代 ― 支払い地代」であり、差額地代は支払地代のない使用借権の方が常に大きい。

※使用借権と借地権(賃借権)の比較
比較する項目
使用借権
借地権(賃借権)
使用の対価
無償
有償
権利の譲渡・転貸
貸主の承諾が必要
貸主の承諾が必要(但し、承諾に変わる裁判所の許可制度あり)
期間の制限
なし
取最低限の年数あり
土地所有者の変更
新所有者に対抗できない
建物の登記で対抗できる


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